司法書士試験_令和6年_午前_第11問_賃貸契約における占有と留置権


司法書士試験の午前の問題で

次の記述をふくめて

記述が正しいかどうかを問う問題がありますが、





A所有の甲土地を賃借したBが、甲土地上に乙建物を建築し、

Cに乙建物を賃貸した場合において、


Cが乙建物について必要費を支出した後、


Bの賃料不払を理由にAB間の賃貸借契約が解除され、


AがCに対して乙建物からの退去及び

甲土地の明渡しを請求したときは、


Cは、Bに対する必要費償還請求権を

被担保債権とする留置権を主張して、

甲土地の明渡しを拒むことができる。




という問題中の選択肢もありますが、


この選択肢の記述が正しいかどうか

判断する基準について教えていただきたいのですが?


どのように質問すればいいかわからないのですが、



(1)

地上権というのは、

土地、建物について扱うものでしょうか?


そうであれば、 土地と建物であれば

重みづけ、というか法行為を行う場合は

優先順位があるのでしょうか?


市民の感覚だと、

土地のほうが優先順位が高そうな感じがするのですが・・・



(2)

Bが賃料不払いを起こしてからの

賃貸契約解除なので、


AB間の賃貸契約がないことのほうが問題なのでしょうか?




(1)と(2)両方が判断基準になるのでしょうか?



この問題の記述の正誤を判断するための基準について、

整理して説明します。


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### **判断基準の整理**


この問題の記述の正誤を判断するには、

主に **留置権** の成立要件を考える必要があります。  

また、地上権や賃貸借の終了がどう影響するかも考えるべきポイントです。


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### **(1) 地上権と土地・建物の関係**


まず、「地上権」は **土地** を対象とする権利であり、

建物について直接的な権利を与えるものではありません。


- **地上権は土地を利用するための権利** であり、

建物を所有するための基盤にはなるが、

    建物そのものを支配する権利ではない。


- **建物は土地とは独立した不動産** であり、

土地の権利関係が変わっても、

建物の権利関係は必ずしも自動的に変わるわけではない。



ただし、

一般的に **土地の権利のほうが建物よりも優先されやすい** です。  


なぜなら、土地の所有者は **土地の上に何を建てるか、

誰に貸すかを決める強い権限を持つ** からです。


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### **(2) AB間の賃貸借契約の解除と土地の明渡し**


Bが **賃料不払い** により、

Aとの賃貸借契約が解除された場合、

Bは土地の利用権を失います。


- すると、Bが建築した **乙建物の土地利用の正当性も失われる**

可能性がある。


- **C(建物の賃借人)もBを通じて土地を利用していたにすぎないため、

土地を利用する正当な権利を持たない可能性が高い**。


- A(地主)は **不法占拠を理由にCに対して明渡し請求をすることができる**。



Cは **乙建物の必要費を支出した** ことを理由に、

Bに対して償還請求権を持つが、

それを **土地の明渡しを拒むための留置権として主張できるか** 


がポイントになる。


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### **(3) Cの留置権の主張が可能か**


**留置権の成立要件(民法295条)** に基づき、

Cの留置権主張が認められるかを判断します。



留置権の要件は以下のとおりです:


1. **他人の物を占有していること** 

 

   → Cは **乙建物を占有** しているので、この要件は満たす。


2. **その物に関して生じた債権を有すること(牽連性)**

  

   → Cは乙建物の必要費償還請求権をBに対して持っている。

   

   → 乙建物の修繕費が対象なので、牽連性の要件は一応満たす。


3. **債権が弁済期にあること** 

 

   → 必要費償還請求権は、支出と同時に発生し、弁済期にある。


4. **占有が不法行為によるものでないこと**

  

   → ここが最大の問題。  

   

   → **Cの建物占有はBを通じたもの** だが、

Bの賃貸借契約が解除されたことで 

**Cの占有の正当性も疑わしい**。



特に **A(地主)はCに対して賃貸をしていないため、

Aに対してCが留置権を主張するのは難しい**。 

 

→ **留置権は、物の所有者に対して主張するものであり、

Aは乙建物の所有者ではないため、Cの主張は成立しにくい**。


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### **結論**


問題文の選択肢の記述は **誤り** であると考えられます。


#### **判断基準**

- **土地の権利は建物の権利よりも強い**

(CはBの契約に依存している)


- **AB間の賃貸借契約が解除されているため、

Cは土地の明渡しを拒む正当な権利を持ちにくい**


- **留置権の要件を満たすかがポイントだが、

「占有の正当性」に疑義があり、Aに対して主張できない可能性が高い**


したがって、

Cは **Bに対して必要費償還請求権を持つが、

Aに対して留置権を主張して土地明渡しを拒むことはできない**。


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### **(1) と (2) のどちらが重要か?**


→ **両方が判断基準になるが、


特に (2)(AB間の賃貸借契約解除)が重要**。

  

なぜなら、Bの土地利用権が失われたことで、

Cも土地を利用する権限を失うからです。


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### **補足:もしBが地上権を持っていたら?**


仮にBが単なる賃貸借ではなく **地上権** を持っていた場合、

Bの権利は賃貸借より強く、

Aによる解除が問題にならなかった可能性があります。


しかし、問題文では「賃貸借契約」が前提なので、

地上権の話にはならず、

AB間の契約が解除された時点でCの権利は脆弱になります。



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### **まとめ**


- **土地の賃貸借契約が解除されたことにより、Cの土地利用の正当性が失われる**



- **CはBに対する必要費償還請求権を持つが、

それをAに対する留置権の根拠にはできない**



- **したがって、CはAに対して乙建物の留置権を主張して

土地の明渡しを拒むことはできない**



- **選択肢の記述は誤り**



このような判断基準で考えると、

司法書士試験の類似問題にも対応しやすくなると思います。



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